ピアノソロ「エッセンスオブ」

 

きっかけは16歳の時に訪れた。「ある日、私は家でやることがなく退屈していました。家にはコンセルヴァトワールに通っていた姉の練習用のピアノがありました。それで独学でピアノを弾き始めたんです」3ヶ月後、1979年2月14日生まれの少年は、高校の学園祭の舞台で「Petite Fleur(小さな花)を弾く。「昔懐かしいジャズ、周囲から完全に浮いていましたね」音楽への最初の一歩からしてすでに豊かな音楽歴を物語っている。そしてその第一歩は、とりわけアントワーヌ・エルヴェ氏との出会いによるところも大きかった。6年間に渡り、週1度、彼のレッスンを受けた。「ピアノの素晴らしさやテクニックの必要性、音に対する意識...私の心の扉を開けてくれました」彼のインスピレーションの源の中には、「この仕事を生業にしたいという気持ちを与えてくれたピアニスト」ミシェル・ぺトルチアーニ、そしてマラヴォワ、アラン・ジャン・マリ、マリオ・カノンジュの重要性を忘れてはならない。そしてエディ・ルイスの存在はさらに大きい。「彼には本当に影響を受けました。彼がよく弾くフレーズをいくつか舞台の上で使ったこともあるくらいです!」

 

 

 

Aquarelle de Xavier Harry par Annie-Claire Alvoët

©Annie-ClaireAlvoët

音楽家としてのデビューから20年後、自分のパーソナリティーのパズルを集めて再構成すべき時がやって来た。いやむしろ、ソロという形で自分の自画像をスケッチする時、というべきかもしれない。Fazioli 280の黒とアイボリーの88鍵が織り成す脈動を聴くことに神経を集中させたスタジオでの4日間...

 

三部作の第三部と彼が見なしているこの新しいアルバムでは、作曲と即興演奏において、自身もファンと認めるキース・ジャレットの影響が明確に見て取れる。「もともとは、オーソドックスなナンバー「Whisper Not」と「 You Don’t Know What Love Is 」の2曲のリライトを含む、8楽章からなる組曲にするつもりだったんです。それをアルバムにする時に、自分のオリジナルである6曲だけを残すことに決めました」確かにそれらの曲目はしっかりと書き込まれてありながら、即興的なパッサージュの中に静けさが広がり、イマジネーションの余地を残している。左手が低音を奏でると、右手はクリアーなメロディーラインを離れ、また別のパーソナリティーの輪郭を照らし出す。それはラフマニノフ、殊更にショパンの鮮明さ、バランスの取れた変化の感覚、幻想的な息づかいなどを思い起こさせる。

自分自身の心の奥底に語りかけ、より深い所に向かうことで、ピアニストは別のパーソナリティーの側面を明らかにする。「憂鬱は私にとって本質的な何かを表現できる状態を象徴しています。この感情が私を繊細で詩的な世界へと深く入り込ませてくれるのです。これは私が一人ピアノに向かって座っている時にだけ現れる感情です。私の中に住むある種の憂いというか...フランスとギアナ、この2つの世界の間に存在する幼少期の故郷へのノスタルジーの記憶、そこに間違いなく根ざしているこの感情を表現する必要があったんです」これが、「エッセンス」というタイトルを選んだ理由であり、グレン・グールドの本に触発されたタイトルでもある。

Aquarelle de Xavier Harry par Annie-Claire Alvoët

様々な意味を含んだこの言葉に対して、彼は哲学的な解釈をする。「音楽にたった一人向き合っている時、私は自分に...ありのままの自分の中に1000%没頭することができます。私にとってそれは魂の中心に向かうことだったんです」ソロ、ピアノを使った自分の分身との対話。「音楽と一体になると、君の魂は身体から離脱するんだ」肉体と魂...パリ郊外のジャズフェスティバルで、偉大なる孤高のジャズピアニスト、マル・ワルドロンのマスタークラスを受けた時、惜しみないアドバイスの中で最も響いたのがこの言葉だった。「私は彼に尋ねました。どのようにしたらミュージシャンとして、生活の中に音楽を統合させることができるでしょうか。その問いに対して彼が答えたその言葉を私は決して忘れたことがありません。『音楽は人生で、人生は音楽なんだよ』」この金言によって、音楽もまた哲学的な道であるということが理解できたんです。本質的なものは、ディミニッシュコードとかこまごましたテクニックとは別の場所にあるんです...」それこそを私達はスピリチュアリティと呼んでいこう。

©Annie-ClaireAlvoët